ライラックまつり

2009年05月24日

15年前、札幌から今の土地に工房を移したとき、元は酒屋だった古い建物の入り口横に1畳ほどの小さな庭がありました。

そこには1本の大きなライラックの木が窮屈そうに立っていて、移転してきた直後、ちょうど今くらいの時期に、赤紫色の花をいっせいに咲かせました。新参者の僕たちを快く歓迎してくれているようにも見え,なんだかいい気分になったもんです。
それから毎年同じころ同じように見事な花を咲かせて、工房のシンボルのような存在とも思えていたのですが、ある日突然に無残な姿となりました。

3年前の秋の終わりころ、工房前の道路工事をすることになり、ライラックの木がどうしても工事の邪魔だから切らせてくれというのです。最初は断りましたが、工事業者の勢いと理屈(ライラックの生えている土地は、市の歩道の上なんだって)に圧されて、僕はついに承諾してしまいました。

確かに立派な枝が何本も車道までみ出しているため、駐車する車に傷を付けたり、時には工房に出入りする人たちの顔にも傷をつけたりもしていたものですから、まあ仕方ないかと思ったのです。

しかし、2階に上がって仕事を続けようとしたところ、なんともいたたまれない気分になり、「しまった、工事業者の言い分なんて聞くんじゃなかった」と慌てて階段を駆け降り、入り口から飛び出しました。
「邪魔な枝だけを切ればそれで事足りるじゃないですか」と言いたかったのですが、すでに手遅れ、ライラックの木はわずかな根元だけを残されて、ばっさりと切断され、道路に横たわっていました。

その冬雪が積もると、なにもなくなった建物正面には石狩川の冷風が容赦なく吹き付けて、工房内の水道とダクト配管が繰り返し凍結しました。凍結防止用の電熱線を増設するだけでは足りずに、僕はライラックのあった場所に雪の壁を高く積み上げ風を防ぎました。

ステンドグラス ライラック 工房次の年、雪が溶けてクロッカスの咲き始めるころ、驚くべきことが起こりました。わずかに残されていたライラックの切り株から、細い枝が四方八方に伸びてきたのです。
「生きている!」と気づいたときの感動といったら・・・。

細い枝はぐんぐんと成長してたくさんの葉を付け、昨年の秋には僕の背丈ほどにもなりましたが、まだ花は見られませんでした。

ステンドグラス ライラック リラそして今年の春、僕の背丈より大きくなって、多すぎるほどの葉を繁らせたライラックがやっと5房ほどの花を咲かせました。

4年ぶりの花です。

淡い赤紫の色が、以前にも増して若々しく輝いて見えるのはひいき目でしょうか。

ステンドグラス ライラック10年ほど前、ライラックが好きで仕事にもしているという方から注文をいただいたことがありました。

もちろん図柄は「ライラックで」という御指定でした。

その時ちょうど工房のライラックは花真っ盛りで、デザインの参考にするため2階の窓から観察し、大いに役立ってくれたことを思い出しました。

 

 
札幌市ではライラックを市の木と指定しており、街の中心にある大通り公園で「さっぽろライラックまつり」を毎年開催しています。
今年は、本日24日まで。

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江差の繁次郎

2009年05月11日

北海道にも桜前線がやってきて、暖かい日が続いています。
気持も何とはなしに浮き浮きとしてはいるのですが、僕の周りからは相も変わらず暗い話が聞こえてきます。
会社の倒産や、借金が原因の離婚、リストラに進学断念、過労で入院など、国政に携わる人々はこの現実を本当に知っているのだろうかと疑いたくなります。

そんな中で少しだけほっとする明るいニュースがありました。
北海道の日本海側沿岸の「群来(くき)」が、記録が残る1954年以来最多になったとのことです。「群来」は北海道以外の地域ではほとんどなじみのない言葉でしょう。PCの変換文字には登録されていませんし、僕の持っている広辞苑第三版にも載っていません。
「群来」とは、ニシンの大群が沿岸に押し寄せて産卵・放精し、海を白く染める現象のことを言いますが、今年はすでに石狩市と小樽市だけで9回を記録したそうです。漁獲量も増えて、3月までに北海道全体で1900トンを水揚げしました。1962年以来の記録です。
しかし1890年代後半には、道内全体で100万トンを水揚げしていたそうですから、今では想像もできないほどのすさまじい漁獲量だったわけです。

道南の日本海沿岸の町江差も、かつては「江差の春は江戸にもない」と言われるほどニシン漁で賑わっていました。そんな時代、江差に実在した繁次郎という人物の話は、時代の一面を生き生きと今に伝えてたいへんに興味深いものです。
繁次郎はトンチ名人と言われていますが、一休さんのトンチなどとはかなり趣が違います。繁次郎は、なまけもので酒飲みで嘘つきで、結構困りものの人間だったようです。しかし、権力者や金持ちなど、周囲の人間を手玉にとって陽気にたくましく世間を渡り歩く様は、鬱病になりかかってる多くの現代人にとって励みになりそうです。
例えば、家に押しかけてきた借金取りに向かって、腹に乗せた椀を見せ「俺の返事はこれだ」とおおいばり、「ハラワン」という駄洒落ですが、このくらい肝が据わっていれば督促状に脅えることもないでしょうに。

http://www.hokkaido-esashi.jp/shigejiro/top.htm

繁次郎のたくましさを受け継いでいるらしい江差町の人々は、今も頑張っています。十数年前から取り組んでいる漆塗り工芸は、本場の輪島市で継続的に研修を受けており、地場産業となりつつあります。

http://homepage1.nifty.com/esashi/urushi/index2.html

blog-esashinuri.jpgもう1年も前のことになってしまうのですが、江差の漆塗りに関わっておられる方にギャラリー村岡でお会いしまして、額縁をいただきました。
古い民家の木材を加工したものだそうです。
それにタンポポを絵付けしたガラスをはめ込んでみました。

ステンドグラス 江差塗り タンポポ

折りよくギャラリー村岡にて、江差塗り工房新作展「新しくなった古さ」が今月末まで開催されます。

http://blog.gmuraoka.com/2009/04/post-23.html

僕の展覧会は15日までですが、上記の作品は残しておきます。
是非ご覧ください。

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ガラスの不思議

2009年05月07日

昨日午後2時より1時間ほど、「トドまってはいけない展」の会場の片隅で、来場者との交流の時間を持ちました。
僕が出品しているガラスカッターについて話すつもりでしたが、それだけでは間が持ちそうにないので、ガラスカットの実演をしながら話をすることにしました。実際に始めてみると、集まってくれた方々の興味は、カッターよりもむしろガラス自体に向いていることがわかりました。

2009blog-cutter.jpg時折発せられる質問は;
「ガラスはどうして切れるのか?」
「ガラスっていつごろできたの?」
「どこで?」
「何でできてる?」
「どうやって作るの?」
「そもそもガラスって何?」

僕たちの普段の生活の中でガラスはいたるところに使われていますが、その歴史や材料や製法について詳しく知る機会はほとんどありません。こんなに身近な物質について何も知らないということに気がついた瞬間、前述のような疑問が次々と湧いてくるのではないでしょうか。

皆さんの熱い好奇心に応えながら、さらに好奇心をかきたてそうな話が口から出かかりましたが、時計を見てやめにしました。
「ガラスは熱湯をかけても割れない」「はさみでも切れる」「凍る」「鉄より硬いが糊より弱い」なんて聞いたら不思議に思いませんか?

これから先時々、この川風便りの中でガラスの不思議についてお話していきたいと思います。

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ココロのカタチ

2009年05月01日

ものを集めるのが苦手です。
子供の頃から今まで、何かの収集をして長続きしたことがありません。
但し、集めようとしたわけではないのに集まってしまったものはいくつかあります。

僕の、そんな自然収集物のひとつがガラスカッターです。
主にフランスやドイツの蚤の市で見つけたものですが、仕事柄どうしても目に留まってしまうようです。

高価なものは買いませんから、わずか13点のコレクションです。
それに加えて現在工房で使っている日本製のカッター5本、合計18本を並べてみました。

ステンドグラス ガラスカッターヨーロッパ製と日本製の形状の違いは歴然としています。
ヨーロッパ製が手の中にすっぽりと収まりそうな大きさと形であるのに対して、日本製は手より大きく飾り気のないスマートな形をしています。
実際に使ってみると、その違いをさらにはっきりと感じ取ることができます。

例えば、パリの学生時代からずっと使っているダイヤモンドカッターは、個体差が大きく、切れる角度や力加減が微妙で、使いこなすのに半年以上の練習を必要としました。
日本製のカッターは品質が安定しており、使いやすいようにヘッドが可動したり、オイルが自動的に注入されたりと、たいへんに便利なものです。

ヨーロッパ製のカッターは、それを使うための注意力や感性を要求し、使用者の技能を引き上げ高めてくれます。
日本製のカッターは、使用者の足りない部分を補って、快適に作業を進めることを助けてくれます。

ヨーロッパ人は、道具が体の一部として機能することをめざし、道具を取り込み一体化することに喜びを感じるようです。
対して日本人は、道具としての性能を追求し、独立した機能を持たせ、道具に身を委ねることに快感を感じているかのようです。

どちらが良いとは言えませんが、いずれもそれぞれの心の持ちようが形になって表されたものであることは間違いないでしょう。

これらのカッターの実物は、下記の展覧会で見ることができます。

「トドまってはいけない」合同展~part5 ~ココロのカタチ
会期  5月5日(火)~10日(日)10:30~18:30 *最終日は17:00まで
場所   さいとうGallery                                                  札幌市中央区南1条西3丁目1番地 ラ・ガレリア5F

6日(水)14:00~15:00には、僕のギャラリートークがあります。
ガラスカッターのカタチについて、実演をまじえながらお話したいと思います。
お近くの方は、是非ご来場ください。

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