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懐かしき庭-その5-

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絵を描くということは、楽器演奏やスポーツにも似ている。手慣らしや準備運動もなしにいきなり本番スタートというわけにはいかない。ましてステンドグラスでは、ガラスカットの時に使う筋肉と筆を使う時に使う筋肉が全く別なので、肉体労働がしばらく続いた後は、筆先の震えを止めるためにクールダウンの時間を必要とする。
そういう意味で作業工程は、ガラスカット~エッチングのシート貼り~絵付けの下絵描き~エッチング~絵付け、というのがスムーズに進行する順序だ。

エッチング

ガラスエッチングとは、フッ化水素酸液に浸したガラスの表面を刷毛で優しく撫で続ける作業だ。
時間を測りつつシートを順番に剥がしていったり、刷毛使いに細心の注意が必要だったりもするが、まあまあの単純労働だ。筋肉を使うこともないから絵付け直前の作業もできるし、何より腐食され白くなっていくガラスを見ていると気分が高揚してくるのがいい。
但し、フッ化水素酸というのはすこぶる強力な酸であり毒物でもあるので、耐強酸用長手袋を着用し専用のアクリル箱の中で作業しなければならない。ガスも危険だから業務用換気扇で強力に排気しているが、それでも強風時には逆流することがある。実際にそれで今回は2日間作業ができなかった。

時間の有効活用

エッチングに要する時間はガラスによってかなりの差異があり、早くて4時間、遅ければ30時間を超えることもある。大雑把に考えて丸3日間の工程だ。
1枚のガラスを腐食するのにそれだけの時間がかかるが、10枚同時に腐食しても時間は変わらない。ならば、できるだけたくさんのガラスを同時に腐食した方が時間を有効活用できるわけだ。
時間を”節約”するという言い方もあるが、時間はお金のように”節約”はできないものだと思う。お金は使わなければなくならないが、時間はだまっていても過ぎていくのだから、”活用”が正しい言い方だろう。
ちなみにお金も、節約するだけで活用しなければただの数字にすぎない。

それはさておき、そういうわけで別の仕事のエッチングも同時にやることにした。そちらの方がはるかに量が多いけれど。(画像に見えているのは8枚中の3枚)

ぼかし

すべてのピースを8時間ほどほぼ均一に(大きい2枚は5段階のグラデーションあり)腐食した後、おもて面の白シートを剥がすとガラス全体の様子が分かる。

そこに”ぼかし”を加えると雰囲気が大きく変わる。”ぼかし”とは、筆に付けたフッ酸原液で手に持ったガラスを一枚づつ腐食する作業のことだ。

花弁の小さなガラスではその効果が分かりづらいので、”別の仕事”の方を見ていただこう。

魚体の輝きなどを表すには”ぼかし”の技法がうってつけだ。

アクシデント

ここで思わぬ事態が!
最も手のかかるピースの一枚が割れてしまった!


と驚いてみせたいところだけど、実際はそうでもなくて結構平然と受け入れている。ガラスの1枚や2枚、制作途上で破損することはよくあることだ。
原因は不明だが、やり直すしかない。ガラスピース1枚だけ、最初から同じ工程を繰り返すことになる。時間も同じだけかかる。しかし他のピースに絵付けしている間に追いつくことができるだろう。

―続く

 

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