雑記帳

暖炉のある家

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小学校1年生の時の同級生に、いかにもお金持ちの家のお嬢様という風情の女の子がいました。まるで少女マンガから抜け出したかのような顔立ちと髪型、服装も何やらひらひらとして華やかな感じがしました。
ある冬の日、家に呼ばれて遊びに行くと、花柄の壁紙に囲まれた居間にはレンガ造りの大きな「ペチカ」があって、手前の炉では赤々と薪が燃えており、部屋はかすかに煙と花が入り混じった匂いがしていました。お嬢様は黒光りするピアノに向かい、僕はかしこまってソファに座り彼女の奏でる童謡を聴きながら、甘ったるい紅茶をすすりつつビスケットをかじった記憶があります。足元の絨毯に落ちるビスケットの屑を気にしながら。

それ以来、僕にとって「ペチカ」は豊かさの象徴であり、いつか自分もペチカのある家に住みたいと漠然と思ってきました。しかしいまや建築技術は進歩し、暖房方法も薪と石炭から灯油や電気へ、集中暖房に床暖房、ソーラーシステムまで現れて、今更ペチカを作ろうという人はほとんどいなくなりました。その一方でここ数年よく見かけるようになったのは「薪ストーブ」です。ステンドグラスを入れたいと思ってくださる ような家の「薪ストーブ」使用率は、おそらく非常に高いのではないでしょうか。

暖房方法を単に利便性だけで考えるなら電気に勝るものはありません。しかし福島原発の事故よりずっと前から、暖房を電気に頼りすぎるのはいかがなものか、という意識が少なくとも北海道では広まりつつありました。「薪ストーブ」が流行るのは、倹約と言うよりむしろ快適さを求めた結果だと思います。
”火を見る”という 安心感、そういうものが居住空間にあるという満足感、いずれも日々の生活を豊かにしたいという思いから生まれる感性ですが、それはステンドグラスを気に入ってくれる方の感性と全く共通のものです。

昨年11月にステンドグラスを設置した江別市内のS邸は、正に僕が小学1年生の時に体験したイメージそのまま、ペチカではないけれどモダンな薪ストーブを中央に配したレンガ造りの暖炉、横にある黒いピアノ、違っているのは白い壁と、ストーブの両脇の窓にステンドグラスがあるということでした。

ー続く

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