もう3年も前のことになってしまうのですが、クリムトの有名な絵「接吻」(1907~1908)をステンドグラスにしてほしいという注文がありまして、それがつい一週間前にやっと完成しました。
制作に3年も費やした理由は色々あるけれど、第一の理由はやはり難しかったからだと思います。
出来上がった作品を見せますと大抵の人は、「本物そっくりに描くことは難しかったでしょう」と言ってくれますが、実のところそこはさほど難しくはありません。
少々見栄を張って言わせてもらえば、ちゃんとした原画を横において、それをその通りに描き写すことは、比較的楽な仕事です。
難しいのは、形や色の向こうにあるクリムトの精神を捕まえることです。
クリムトの華美な装飾性に騙されてはいけないと思います。
クリムトは美しいものをただ美しく描こうとしたわけではありませんでした。
愛の向こうに肉欲を、生の向こうに病気や死を描きました。
美を表現したかったのではなく、真実を表したかったのだと思います。
言い方を変えれば、クリムトにとっては真実こそが美であり、それが表面上醜かったり汚れたりしていても構わなかったのだと思います。
クリムトのこの精神性は、実際の絵画表現にもシンクロ的に投射されています。
■関連情報:川風便り「美しき汚れ」