自分の頭の中にある想像だけで作品を創ることはできるだろうか?
もちろんそれは可能だけれど、建築物と一体化するステンドグラス作品ならば、現地を見ないということが致命的なデザインミスに繋がる恐れがあると思う。
だから僕はデザインをする前に必ず現地を訪れて、その土地の気候や風景はもとより、人々の暮らしぶりや食べ物、陽光の強さ、流れる風の音と匂い、そんなものを体全体で感じて工房に持ち帰るようにしてきた。
今回の仕事が決まった後、何度も現地の下見に行こうとしたが、その都度コロナ対策の緊急事態宣言やら何やらにぶつかって、結局一度も北海道から出られないまま納期が迫り、制作を開始せざるを得なかった。
で思いついたのが Google Earth のストリートビューを利用すること。
現場の周囲を仮想徘徊してみたら、期待していた以上の収穫があった。
ストリートビューの画面からは、透光性のガラス作品にとってはとても大事な光の様子がつかめるだけでなく、しないはずの音や匂いさえも感じられる。
僕は提出したデザインの一部を変更することにした。
フュージング作品に限らず普通のステンドグラス作品の場合でも、ある程度のデザイン変更は認めてもらえるよう事前に了解を得るようにしている。そうしないと自分の提出した原画が足かせになって、制作中のひらめきや工夫を生かせなくなってしまうからだ。
とは言っても極端な変更はできない。許される範囲でということになる。
ストリートビューを見ていくつか気が付いたことがある。詳細は書かないが、現地の印象が大きく変わった。
僕の提出案では、ほぼ抽象的デザインを想定していたけれど、少しばかり具象化した方がより効果的と確信する理由があったので勝手ながらそうさせてもらった。
例えばこういうところ。
「花」の一枚。
明らかに花の形を模している。
「水」の一枚。
水に決まった形がないとはいえ具象性は感じられると思う。
『木」の一枚。
どう見ても葉っぱだね。
僕は作品に自分のサインを入れる時と入れない時がある。
偉ぶるわけでは決してなくて、僕がサインを入れるのはその作品のデザインが100%自分の責任である時だけだ。サインとは自己主張ではなく、責任の所在を示すものだと思っている。
ステンドグラスの仕事は原則として受注制作なので、注文主の意向が強く反映される。
「明るい感じで」とか「花を主題にして」という要望に応えてオリジナルのデザインを生み出せば、それは僕が全責任を負うべき作品となるが、雑誌の切り抜きを見せられて「これと同じものを」と言われて作ったものに自分のサインをするわけにはいかない。
出来上がったデザインの一部に重大な変更を求められた時も同様だ。
「この白い花を赤色に変えて」とか「空が寂しいから鳥を三羽飛ばして」という要望を実現した後作品の雰囲気が大きく変わってしまったなら、たとえ注文主が大満足であったとしても、僕がデザインしたものではなくなっているのだからサインをしてはいけないと思う。
サインをするべきかどうか迷ってしまう微妙な状況の時もある。
今回の仕事において注文主からの具体的要望は「花・水・木」というタイトルのみで、その他の指示は一切なく自由にデザインさせてもらったから、通常ならば堂々とサインして「100%責任を持ちます」と胸を張るところだが、制作開始の頃はその自信が持てなかった。現地の下見もできないままデザインを提出し了承されたものの、これで良いという確信が持てなかったのだ。
しかしストリートビューのおかげで自信を持ってデザイン変更することができたから迷いのあったサインを入れた。
―続く