少々乱暴な言い方を許してもらうなら、施主に提出した原画は目安にすぎない。
特にフュージング作品の場合その傾向は強くなる。
全体のコンセプトは守るが、細部のデザインを考えながらより良いものを目指して制作は進んでいくものだし、焼成後のガラスは色も形も予測以上に大きく変わることがあるからだ。
施主の期待を良い意味で”裏切る”のも有だと思う。
工房の2階片隅には”フュージング作業コーナー”があり、一通りの材料と共に作業台や照明が備えてある。
これから1ヶ月間、ほとんどの作業をここで行う。
土台になるガラスをカットする。
ブルズアイ社のフュージングシリーズクリアーガラスは元板サイズが1220×610、これを12等分すると1枚が203×305くらいになる。
それを72枚用意する。これが上下のパンとなって、36個の大きなサンドイッチを作るようなものだ。
全体のデザインを思い描きながら、サンドイッチの“具”のところを個別に並べていくのがこれからの楽しい仕事。
まずは作業台に土台のクリアーガラスを置く。
思いつくままに色ガラスを並べる。場所によっては何枚かのガラスを重ねるが、高さを揃える必要があるため3重までと決めている。
最後に1枚のクリアーガラスを重ねて完了。
途中で”悩む~やり直す”という工程を挟まなければ実に簡単な仕事だ。
しかし、デザインの本質は”悩む”ことにあり、作家の本分は”やり直す”勇気にあると信じているから、このサンドイッチを3枚作るのに2日費やした。本物のサンドイッチなら腐り始めるころだ。
幸いにガラスは焼成前なら変質の心配もなく何度でもやり直すことができるけれども、焼成後の失敗作は捨てるしかない。だからこの工程に時間をかける。
頭の片隅からは、大丈夫か?間に合うのか?という声が常に聞こえているけれど。
―続く