新しい仕事がスタートした。
公共施設の外塀にアーティスティックなガラスを嵌め込み”彩りの壁”にしようという計画だ。
施主からいただいたお題は「花・水・木」、市木である「ハナミズキ」をもじったものだけれど、デザインのコンセプトとしてはシンプルで分かりやすい。素直にそのままのイメージで描いた抽象的デザインを提案し了承された。
塀自体の形状・構造や塗装色などの原案も提案したので、全体でひとつのモニュメントのようなものだ。多くの人をお迎えすることになる建物エントランス付近に、優しいガラスの花を添えたいと思う。
※ 建築物が完成するまで地名・施設名などの具体的表記を避けるよう施主から依頼されています。
今回の仕事は、風雨にさらされる設置場所であり、人に触れられる可能性もあるため強度と安全性が強く求められていた。
通常のステンドグラスパネルでも外部に設置できないことはないけれど、色々考えてフュージング(溶融)技法によって厚板ガラスを作り現地で組み合わせることにした。
金属製の塀は”花・水・木”を表すため3枚に分かれており、それぞれに200w×960hほどのスリットが4本設けられている。ひとつのスリットを横に三分割して、200w×320hほどの厚板ガラスを合計36枚制作することになる。
この寸法は、フュージング用ガラスを製造しているブルズアイ社(米国)の元板サイズを12等分するところから割り出したものであり、同時にボザール工房の電気炉棚板サイズを考慮したものでもある。
アートには関係ないと思える現実の様々な条件に配慮が不足していると、作業時間が増え、材料の無駄が増え、ストレスが溜まり、しまいには納期に間に合わないとか採算が合わないということにもなってしまうから、決しておろそかにしてはいけない大事なことだ。
そういったこともすべて含めて”デザイン”の仕事の範疇なのだと思う。
ボザール工房設立と同時に購入した今の電気炉は、工房と共に働き続けて今年で37年になる。
日本で初めてのステンドグラス絵付け専用電気炉であり、その開発には僕も関わったから思い出深い。当時まだ珍しかったデジタル操作パネルを導入したのが自慢だったが、それも今やアンチックな風情を醸し出している。
何度か電熱線を交換し、温度計も一度取り換えた。しかしそれ以外の故障はなく、ずっと良き相棒だった。様子がおかしくなってきたのは昨年の「キスリング展」のためにフュージング作品を大量に制作した時からだ。
元々この炉はステンドグラス用の絵の具を焼成することだけを目的にしたものなので、上限650℃に合わせて設計されている。しかしフュージングに必要な温度は800℃を超えることもあり、それは全く想定外のことだ。
少々時間はかかるが、頑張れば800℃に達することもできるため、これまで何度かフュージングにも利用してきたが、その無理がたたったらしく昨年ついに音を上げ始めた。指示した温度に達する前に加熱をやめてしまうことがあるのだ。「もう限界」と言われているような気がする。
今回の仕事に必要な電気炉の使用回数は12回、俺だって頑張っている、何とか今だけは働いてほしい、その後でゆっくり休んでいいから、と追い詰められた会社経営者のごときお願いをしているところ。
頑張れ電気炉!
―続く