ヨーロッパに現存する古いステンドグラスの模写をすることによってその制作技術と感性を学ぶ、というやり方はパリの工芸学校(通称メチエ)で実践していた教授法ですが、ボザール教室でもその方法を取り入れています。
メチエの授業は、製図やガラスカット、組み立ての練習からスタートしますが、その練習は半年ほどで切り上げます。
それ以降卒業までは、絵付けの勉強に集中します。
もちろんガラスカットや組み立ての作業もあるけれど、それはできて当然という扱いです。
現在ボザール教室の生徒が進めているオータンの作品模写は、メチエの最終課題のひとつでした。
この作品の模写をするには、土台となる絵付け技術の積み重ねが相当に厚くなければなりません。
実際の作品の制作年代は1515年、ステンドグラスの絵付け技法が最高潮に達しようとしている時代です。
この後数十年の間、ステンドグラス絵付け技法は、油彩画などの影響を受けて”絵を描く”技術の目覚ましい発展を遂げます。
しかしステンドグラス本来の”光を透す”という目的をおろそかにしたため、17~19世紀までの長い退廃期を迎えることになります。
オータンの作品は、高度な絵付け技術を施しながらも、まだステンドグラスとしての魅力を失っていない、という時代の記念碑的な作品です。
メチエの課題で制作するのは、14人の王の内一人の上半身だけ、400h×300w程度の大きさです。
それでも必要な技術を習得して模写を完成させるまで、普通に通学して数ヶ月を必要としました。
対して、今ボザール教室で生徒が制作している模写は、1600h×900wほどの大きさがあります。
面積にすると12倍、4人の聖人のほぼ全身を描いています。
メチエでもこの大きさで制作した例はありません。
そんな作品の模写に果敢に挑戦したボザール教室生徒は、僕の容赦ない駄目だしにもめげず、この作品に2年以上の月日を費やしてここまで到達しました。
あと1回、焼成をすれば組み立て作業に入ることができます。