ちょっと変わった仕事を引き受けました。と言っても制作技法としては、ステンドグラスの絵付け技法ですべて対応できますから、絵付けの説明をするためには良い教材になりそうです。
ということで、この仕事の制作過程一部始終を数回に分けて書き記すことにしました。興味のある方はもちろん、興味のない方もそれなりに楽しめるよう努力しますので、どうぞ是非最後までご覧ください。
僕の仕事は、基本的に注文制作のため、常に注文主がいます。今回の仕事の注文主は、洋画家の高梨芳実画伯です。彼とは札幌の同じ高校、同じクラス、美術部で一緒、共に美大の受験に落ちて、同じ受験予備校に入りました。しかし僕が予備校をやめフランスに逃亡した後も、彼はひたすらに絵を描き、日本画壇の中枢を歩み続けてきたようです。今では結構偉くなってるらしいので”画伯”としましたが、僕にはどうもピンときません。やはり”高梨君”と呼ぶことにしましょう。
そんなことはともかく、肝心の仕事の話です。ブログのタイトルにしたElefante Giallo(エレファンテ ジャッロ)はイタリア語で”黄色い象”という意味ですが、神奈川県早川にオープンしたイタリア料理店の店名です。その店の入口ドアの小窓に、高梨君自らがデザインしたステンドグラスを入れたいとのことでした。
当初はステンドグラスと聞いていましたが、小窓の大きさが15㎝角の正方形ということでして、相談の上、ガラス一枚に加工した方が効果的だろうという結論に至りました。
彼の描いた実物大原画がこれです。
実を言うと、僕は他人のデザインで制作した経験はほとんどありません。注文主の要望を聞いて、僕がデザインした原画を提案するというのが通常の仕事です。しかしだからと言って、他者のデザインで制作してほしいという依頼を断ったことも一度もないのです。こちらの条件さえ満たしてもらえれば、喜んでやらせていただくのですが、その条件を聞いただけで退散していく人がほとんどなもので、なかなか実現できないわけです。
その”条件”とはたったひとつ、ステンドグラス用のオリジナル原画を用意していただくことです。これまで、自分の描いた絵をステンドグラスにしてほしいと工房にやってきた絵描きさんはたくさんいますが、いずれも普段自分が描いている水彩画や油絵を持参してきただけでした。それに対して僕がする話はいつも同じです。曰く「水彩画には水彩の、油絵には油絵の材料や道具を生かした表現がありますよね。同じようにステンドグラスにはステンドグラスの表現方法があります。材料や技法の勉強を少しだけしてから、ステンドグラスのための原画を描いていただけませんか」というものですが、この至極当然の提案に、驚く人やら落胆する人、しまいには怒り出す人もいて、僕を悪者にしながら去っていくのがいつものパターンです。
さてそこで、高梨君はというと、彼はなかなか偉いものです。最初から、ステンドグラスで何ができるか?どんな技法があるか?ということをこと細かに質問してきて、僕の常套句”絵描きさん用提案”を口にする機会は全くありませんでした。
高梨君から最初のメールが来たのが3月18日、その後電話とメールのやりとりが続き、4月の末までにはデザインを完成させるからとのこと、しかしデザインが僕のところに届いたのは6月8日でした。それからさらに細部の打ち合わせが続き、ようやく仕事が始められそうだというところで僕の質問、「ところで納期はいつ?」「もう店はオープンしてるから、できるだけ早く」だって。
ー続く