「もう一つの地球が見つかる日」という本を読んで実感できるのは、天文学という学問がほとんどすべて光の観測によって成り立っているという事実です。我々が通常目にしている光を、天文学者たちは考え付く限りのありとあらゆる手法を使って観測し分析し解釈して、宇宙を理解しようとしています。
中でも光をスペクトルに分解して観測する方法は、フラウンホーファーの時代から綿々と続く重要な分野ですが、1970年代にデジタル式の検出器が登場しコンピューターで解析するようになってからは飛躍的に発展しました。そうなると分光器に入る前の光の精度も重要になってきます。そこで登場したのがフッ化水素。
フッ化水素は、その水溶液がガラスを強力に溶かすことで我々の業界では良く知られています。
ガラスの業界だけではなく、電子部品や歯科医療の分野でも使用されていることを知ってはいましたが、天文学の分野で利用されていたとはこの本を読んで初めて知りました。
1978年にカナダの天文台で行われた試みが、フッ化水素を利用した最初の観測でした。
口径1.2メートルの望遠鏡の前方にフッ化水素のガスを封入した箱を取り付け、さらにそれを100℃まで加熱しなければなりませんでした。そのときの責任者は次のように述べています。「この試みは危険極まりなかった。フッ化水素はきわめて腐食性がある上に、毒性が非常に強い物質なのだ」と。
1978年といえば、僕がステンドグラスの勉強をするために工芸学校に入った年で、フッ化水素酸を使ったガラスのエッチング加工を初めて経験しました。当時はその危険性をほとんど認識していませんでした。
フッ化水素のガスに恒星からの光を通すと、幅広い間隔で吸収線を生じさせ、それが正確な物差し替わりとなる。それと比較して通常の光のスペクトルに見られるドップラー偏移を測定することができる・・・のだそうです。この方法による観測はその後12年間続けられましたが、あまりに危険であったため、性能は悪いけれどより安全なヨウ素に替えられました。
僕はあれから35年、まだ続けています。大丈夫みたいです。
ー続く