雑記帳

友の家

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羽仁もと子という人がいます。
ご存知の方も多いと思いますが、雑誌「婦人之友」を創刊し、「家計簿」を創案された人です。日本で初めての婦人新聞記者であったということでも 知られています。

娘婿に政治学者の羽仁五郎 、その子が映画監督の羽仁進、さらにその娘にエッセイストの羽仁未央がいますが、いずれも学者や映画監督やエッセイストなどという範疇には収まらない多彩な活動をする方々で、多少のゴシップもあったりして、世間一般にはこちらの方が名が通っているように思います。

僕の羽仁もと子に対する知識もそんなものでしたが、以前学校創りの運動に参加していたこともあって、「自由学園」の創立者であることも知っていました。1921年池袋に建てられた自由学園の校舎は、そのころ帝国ホテルの設計のために来日していたフランク・ロイド・ライトの設計でした。その建物は現在「明日館(みょうにちかん)」として、国の重要文化財に指定されています。好んでステンドグラスを多用するライトですが、ここでは残念ながら使用しませんでした。

それはさておき、昨年5月に江別の木製品ギャラリー「ウッドいのうえ」で催した展覧会「タンポポ展」に、3人の女性が見えました。あいにくとその時僕は会場にいませんでしたので、あとから聞いた話ですが、ずいぶんと熱心に一点一点のステンドグラスを鑑賞し、にこやかに言葉を交わしながら小さな会場を三周ほどして、「また来ます」と言って帰られたということでした。
制作者にとって熱心に見てくれるお客ほど有り難いものはありません。展覧会は、一対一の会話と同じです。こちらが心の底から言葉を発しているのに、相手がそっぽを向いていたり、一言も返答がないということがあると 、すっかり落胆してしまいます。

後日、言葉通りに再来された3人にお会いすると、いずれもベテランの主婦といった風情に加えて、朗らかさと穏やかさを兼ね備え、なんとも心地よく接してくださる方々でした。聞けば、3人の方々は「江別友の会」のメンバーで、近所に会の集会所「友の家」があって、その建物にステンドグラスを入れたいということでした。
「友の会」?「友の家」?新興宗教か!?と一瞬身構えてしまったのは、僕の無知に起因する大きな勘違いによるものです。

「友の会」は、1930年に「婦人之友 」の読者によって生まれた婦人団体だということをこのとき初めて知りました。その活動内容はすこぶる真摯なもので、家計簿の付け方や、洗濯の仕方、掃除や収納の仕方、料理に裁縫を学び合い、ボランティア活動に励み、最近では環境を守るための様々な活動も積極的にこなしています。
羽仁もと子の理念を信じて守り、今でも細々と実行している方々が身近にいたのだということに僕は感動しましたが、”細々”というのはやはり僕の思い込みによる大きな間違いでした。
「友の会」は全国に187ヶ所(海外の9ヶ所を含む)の拠点があり、会員数は22,000人を越える大きな組織です。あちらこちらで話をしてみると、僕の周囲にも「友の会」で活動したり、お世話になったり、関わったりしている人々がたくさんいました。僕が知らなかっただけでした。

友の家 ステンドグラス江別友の家」は、建築家が会員と相談しながら、その要望を最大限に受け入れて設計した立派な建物です。
ステンドグラスは、ホールの正面にある細長い窓とその上の2枚の三角窓に入れたいという希望でした。

早速デザインをして提案しましたが、広い面積の窓で、結構な価格になります。何事も民主的な話し合いにより事を進める同会では、この件についても話し合いを重ね、約一年後の今年の春に正式な注文が来ました。

担当の方々は、お待たせしてすみませんと何度も謝られてましたが、そんなことは少しも問題ではありません。
むしろ時間をかけて検討し決定していただいたということは、その後長い時間にわたって作品を大事にしていただけるという保証のように思えます。

友の会 ステンドグラス

ステンドグラスのデザインは、自由学園の校舎建築に際し、羽仁吉一・もと子夫妻がライトに示したと言われる「簡素な外形のなかに、すぐれた思いを充たしめたい」という理念に従いました。

”簡素”は確かに具現していると思いますが、”すぐれた思い”はどうか?
毎日のようにこのステンドグラスを目にする方々に判断していただくほかありません。

「友の会 」の方々は、各種の手工芸にも熱心に取り組んでおられます。
明日は、「友の家」ホールにてステンドグラスの体験講習会をさせていただくことになりました。
ホールのステンドグラスとは、5月26日に取り付けて以来の再会ですが、自分の作ったステンドグラスの光の中で講習会というのは初めての経験です。


■関連情報:作品集「江別友の会 三十周年記念」   

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