デザインを仕事にして30年が経ちますが、その最初のころから、これはやりたくない、やってはいけないと思うことがありました。
デザインという仕事は、原則として注文主からの要望に応じて絵を描くものです。具体的なお題をもらうこともあれば、漠然としたイメージを示唆されるだけのこともあります。例えば、「冬」というお題で僕が絶対に描かないのは雪の結晶と雪だるまです。「北海道らしさ」というのもよくあるテーマですが、キタキツネだけは描きません。
「夢と希望」とか「明るい未来」とかいうタイトルの様々なカテゴリーの作品に決まって登場するのは、太陽と虹や風船、気球、花と鳩、走っている子供・・・、僕が同様のお題をもらったときには、それらのものをデザイン画の中に極力登場させないようにしてきました。
雪の結晶やキタキツネ、虹や気球という画材は、あまりにも使われすぎて一種の記号化していると思います。それさえ描いておけば相手に確実に意味が伝わるので、ポスターのように、不特定多数の人の注意を瞬間的に強く引き付け情報を伝えるためには適しています。
僕がこれまでやってきたデザインの仕事のほとんどは建築がらみですが、ポスターのデザインとは全く条件が違います。建築デザインは、ある程度限定された人々に、そこだけに強く注意を引くことなく周囲と一体化し、時間をかけて認知してもらうものです。だから、記号化したデザインパーツの使用を避けてきたというより、使う必要がありませんでした。
場所は、市立札幌病院の増築部分廊下、北西向き窓。
現在工事進行中。
作品タイトルは、「時は虹色に輝く」。
2000h×500wのパネルが5枚。
以下は、注文主にデザインを提出したときの説明文です。
自然に満ち溢れていた過去から、開発に明け暮れた近代、そして自然との共存を目指す現代、さらに世界や宇宙へと進出する未来という時間の流れを、明るい希望が持てるように虹色に表現しました。
飛ぶ鳥や泳ぐ魚、流星など、動きのあるものを多数描くことによって時が移り変わる様を強調しています。
タイトルに”虹色”という文字が含まれていますが、もちろん”虹”そのものを作品の中に登場させることはありません。記号化された”虹”ではなく、作品全体で”虹”を表現したいと思います。雨が上がって晴れ間が射した瞬間のすがすがしさ、ほっとした気持ち、虹を見つけたときの喜び、何かいいことが起こりそうな予感・・・、そういったもののすべてを作品に込めたいと思っています。
-続く