ステンドグラスの絵付けには様々な技法がありますが、基本となるのはグリザイユ絵付けです。グリザイユというステンドグラス特有の絵の具をガラスに付着させ高温で焼き付けます。
グリザイユで顔や文字を描くことにより何らかの意味を伝えることもできますが、より重要なのは光を調節するという役目です。ガラスに描いた一本の線が見えるのは、その部分が光を遮っているからだ、という至極当たり前の事実に則って、ステンドグラスの絵付け技法は体系付けられています。
今回の作品では、グリザイユを薄くマット状に延ばしてから削るという削除法を多用しました。
そのときに活躍するのは、”ブレロー(仏語;blaireau)”または”バジャー(英語;badger)と呼ばれる大きな刷毛ですが、仏語英語共に、その毛の持ち主”アナグマ”のことを指しています。
僕は3本持っていますが、左から順に30年、25年、20年と使い続けています。
同じアナグマでも個体差があるため、それぞれに毛質の特徴があり、用途に応じて使い分けます。
使いこなすのが大変に難しい筆です。
刷毛目を残してグリザイユを延ばし、葉模様を削り描きしました。
特殊なやり方として、波模様を削り描きして焼成した後、フッ酸で洗いました。
グリザイユの茶色い色味が抜けて、艶消しの曇りガラス状になります。
同様にしてぼかしを入れ、透明と不透明の差を出します。
光を”遮断”するのではなく、光をガラスの表面に”留める”という効果です。
ー続く