「陽のあたる教室」という映画があります。
1996年に日本公開されたスティーヴン・ヘレク監督の映画です。ある程度ヒットしたので覚えている方も多いことでしょう。主演のリチャード・ドレイファスがアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、受賞はできませんでした。僕はむしろ作品賞にふさわしかったと思いますが、この年はメル・ギブソンの「ブレイブハート」が注目を集めたせいで「陽のあたる教室」の存在がかすんでしまいました。
この作品がいまひとつ一般受けしなかった理由は、描いた世界の狭さだったろうと思います。ドレイファス演じる主人公グレン・ホランドが1965年の30歳の場面から物語はスタートします。彼は心底音楽を愛するミュージシャンでしたが、作曲のための時間がほしくて高校教師の職に就きます。しかし自由な時間が持てると思った音楽教師の仕事は、様々な難問が降りかかり、片手間にできるような仕事ではありませんでした。
この映画は、”学園もの”や”青春もの”でもなければ、音楽映画でもありません。見方によってはかなり深刻な内容ですが、人種、貧困、薬物、犯罪などアメリカ社会の病根とも言える問題には一切触れていません。
作中に描かれている数々のエピソードはすべて、”音楽と教育”というテーマに見事なほど集約されています。だからこそ音楽やその他の芸術、あるいは教育に関わる人間にとっては身につまされる思いでこの映画を見ることができますが、それ以外の人にとっては現実感に欠けるらしいです。
結局主人公ホランドは60歳を過ぎて解雇されるまでの30年間を音楽教師として過ごすことになります。これ以上は詳しく書けないけれど、良い映画です。まだ見ていないという方に自信を持ってお勧めできます。
僕もホランド同様、制作を続けるための糧にするつもりで始めたステンドグラス教室ですが、途中でやはり認識の甘さに気づき、真剣に教えて30年が過ぎました。映画の中のリチャード・ドレイファスは30歳から60歳までをすばらしい演技で演じきりましたが、僕にとっては全くの現実となりました。
8年ぶりのボザールステンドグラス教室展を催します。
芸術に関わることで僕たちの人生をいかに豊かにすることができるかということを証明したいと思いました。
作品にその人の人間性が現れるということと、作ることによって人間が変わっていくということを実践したいと思いました。
何より芸術の楽しさを伝えたいと思いました。
僕の勝手な思いに生徒たちがどのように応えてくれているでしょうか。
是非会場でご覧ください。