雑記帳

ジゲチャトウロク -前編ー

2008年11月30日
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深夜のコンビニ深夜2時、コンビニの駐車場に1台の古びたワゴン車がゆっくりとすべり込む。
それまで退屈そうにしていた若い男性アルバイト店員は、車から降り立った中年の男を目にするや否や奥の控え室に駆け込んだ。
男が自動ドアから入りかけたときにはすでに、先ほどの店員と共に奥から呼び出されたもうひとりの男性店員が、それぞれのレジスターの前に毅然とした態度で身構えていた。
「いらっしゃいませ!」というユニゾンで発せられた大きな声に、男は一瞬たじろいだかに見えたが、すぐに気を取り直して、入り口横にあるコピー機に張り付く。二人の男性店員は男の背中から目を離さない。その様子が正面にあるガラスに映って男にもはっきり見えていた。
男は手にしていた大きな紙封筒をコピー機の上に置くと、尻ポケットから財布を取り出し中をまさぐった。しばらくそのままじっとしていたが、突然意を決したようにふり返ると、近くのレジの前に歩み寄った。
心なしか店員の顔が引きつる。
男は、不自然な笑みを浮かべながら、千円札を一枚差し出した。
「コピーしたいんだけど、両替してもらえますか?」
店員は、緊張した顔つきのままレジを開いて、男に小銭を渡した。

この”男”とは、もちろん僕のことです。
ステンドグラスのデザインが完成するのは、深夜または明け方になることがほとんどで、それからコンビニへカラーコピーをしに行くのが常です。そこで前述のような光景を引き起こすことも多々あるわけです。
僕の風体はというと、ぼさぼさの髪とひげ、そのうえ疲れた顔に汚れた作業着 、それがサンダルか長靴を履いて、年代物の車で人気のない時間にやってくるのですから、店員達の反応は当然のことと思います。

「人を見かけで判断するな」と言うのは正しい戒めですが、見かけでかなりのことがわかるのも事実です。コンビニの店員達は僕を見て即座に次のことを推測したはずです。「金がない、生活が乱れている、無職あるいは何か変わった仕事をしている」どれも当たっています。そして昨今は、その種の人間が物騒な行動に及ぶことが珍しくない世の中になってしまいました。

今年の春、高校三年生になったばかりの長女がちょっとした事件を起こしたため、夫婦揃って学校へ呼び出されるということがありました。担任の先生が言うには、長女が友達数人と一緒に髪の毛を茶色に染めたというのです。 僕も妻も毎日長女と顔を突き合わせていながら、そのことに全く気がつきませんでした。家に帰ってから長女の髪を確認しましたが、元々茶色っぽい髪が見る角度によってより明るく見えるという程度でした。親でさえ見過ごしていた子供の僅かな変化に気がついた担任の観察眼には脱帽するよりありません。

僕の家系には、巻き毛で茶色い髪の人間が多く、僕もそうでしたから娘達に遺伝したようです。長女の生まれながらの茶髪は、小学校でも中学校でも指摘されることがありましたが、高校では検査の度に注意されて、その都度生まれつきだとか部活で日に焼けたせいだとか言い訳をしていたとのことです。髪を染めたのは、どうせまた注意されるんだしと、ちょっとやけになったからだそうです。

このとき担任から僕達夫婦が初めて聞かされたのは「ジゲチャトウロク」という言葉でした。漢字にすると「地毛茶登録」で、つまり長女の通う高校では、地毛の茶色い子は入学時に 登録することになっていて、長女はその手続きをしていないから検査の度に注意されるのだということでした。
なるほどそういうことでしたか。何故僕達夫婦がその制度を知らずに2年間も過ごしてしまったのかは不明ですが、親の不注意で子供を苦しめたのは間違いのないことですから、自身の不徳を恥じるべきであると思いました。

この件の処分に関して、学校からは長女の髪を黒く染めなおすようにという指導がありました。ん?ここでちょっと疑問が・・・。
髪を染めたということで注意されたと思っていたのに、その過ちを正すためにもう一度同じことをやれと・・・?

そのあと、学校の先生方と僕達夫婦の考えには、大きな隔たりがあることがわかりました。

-後編に続くー

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