雑記帳

秋の1日ーその2-

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しばし紅葉の山を巡った後、昼前に美留渡の街中へと戻り、おそらくはその近辺でただ一軒のラーメン屋に入ってみました。
赤い暖簾をくぐり、僕と妻は目の前のカウンターの席に座りましたが、一人で切り盛りしてるらしいカウンター向こうの中年の 女性が「すみません、出前に行ってきます」と言い残し、慌しく出て行ってしまいました。ガランとした店内を見回すと、正面の壁の天井下に神棚風の棚があり、左にはかなり年配の女性の写真、右にはまだ50代と思しき男性の写真が飾ってありました。男性の写真はつい最近のもののような気がします。
女性が戻ってきて、僕たちは醤油ラーメンを注文、期待通りの昔風ラーメンでしたが、スープがちょっと薄くて麺は少し茹ですぎかも。「タンポポ」という映画を思い出しました。映画の中の山崎努のような運転手が現われるといいんだがな。

ラーメン店を出た後は、メープルロッジへ。ここで温泉につかろうかと思ってましたが、あまりの人混みに断念。「なんとか祭り」を開催中だったようです。逃げるように大混雑の駐車場を出て、義父の同窓生がやってるりんご園直売所へ。

昨年は店が閉まっていましたが、今年はやっているようです。80歳を超える園主が店先に立っているのが道路から見えました。しかし、車を降りて園主に挨拶しようとしたとき、一瞬身がこわばりました。園主の鼻には透明なチューブが突き刺さっており、立っていなければICUで面会謝絶の患者のごとき様相です。それでも園主が、かすれた声で途切れ途切れに説明してくれた話を要約しますと、肺がほとんど使い物にならず、苦しくなったら腰に装着したボンベを開いて酸素を吸わなければ死んでしまう、のだそうです。
話をさせるのも気の毒で、りんごを一袋買ってそそくさと立ち去ろうとしたら、義父へのおみやげに持ってけと、同じものをもう一袋いただきました。ついでに隣に置いてあった”突然変異”の大きなりんごを、珍しいんだよと三個持たされ、帰ろうとしたら「ちょっと待って」と奥様に呼び止められました。奥様専用のりんごの木があって、それが今食べごろの実がなってるはずだからと、奥様は裏のりんご園に走り去り、その間また園主と病気の話をし、汗だくで戻ってきた奥様から立派なりんごを一袋いただき、結局また昨年同様、買った量より多く頂き物をしてしまいました。

 

「来年もまた来ます。そのときは必ず父も連れてきますから」 という妻の言葉に「もうおらんかもしれねえけど」と鼻から下がるチューブを揺らして笑う園主。

本当にこれが最後かもしれないと思うと、一瞬目の前がかすんで、すぐに車を出発させることができませんでした。

ー続く

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