先週日本は40年ぶりの寒波に見舞われました。北海道では-30度を超えた地域もあって、濡れたタオルを振り回して凍らせたり、熱湯を空中にまき散らして結晶化させるパフォーマンスなど、お馴染みの映像がTV画面に繰り返し流されていました。それに加えてちょっと目を引いたのは、ビールや日本酒などのアルコール飲料さえも凍ったという報道でした。
通常北海道ではアルコール飲料は凍らないとされていて、ボザール工房のように日中でも室内の水道管が凍ってしまうような環境でさえ、ワインもウィスキーも凍ることはありません。しかしそれもさすがに-30度となれば凍ってしまうということですね。
そもそも世の中に凍らない物質はありません。あらゆる物質(の原子または分子)の動きが止まってしまう温度を理論上導き出して絶対零度(-273.15℃)としていますから、ほぼすべての物質はその前に凝固してしまうわけです。但し、最初から固体(原子や分子がくっつき合って動けない状態)の物質は、すでに凝固しているので”凍る”という変化は起きないことになります。
ではガラスはどうか?通常の生活ではガラスを固体として扱っていますが、物理的には液体の性質を持った固体とされています。液体ならば凍るはずですが、確かにその通り、僕の経験上ではガラスは凍ります。
ボザール工房のガラス庫は一階の奥にありますが、暖房がないので外と同じ気温になります。真冬にガラス板を取り出しに行くと、素手では触れないほどに冷えていて、その状態のガラスをすぐにカットすることはできません。しばらく暖かい空気にさらして”解凍”しなければならないのです。
凍ったままのガラスをカットすると、まるで氷の板を切るようで、思わぬ方向に亀裂が走り失敗が多くなります。これはつまりガラスの”粘り”がなくなるからだと思います。
ガラスが凍っていることを実感した経験がないガラス関係者の方でも、ガラスの”粘り”についてなら経験があるでしょう。一度ガラスカッターを走らせて亀裂を生じさせたガラス板を、分断せずにそのまま放っておくと亀裂がある程度修復されてしまうという現象は業界内で広く知られています。ガラスの分子の並びには隙間があって、液体のごとく分子が流動するために起きる現象だろうと思います。ガラスカッターを使った直後にそのガラスを分断すると糸を引くような”粘り”が感じられますが、しばらく経ってから分断しようとすると、乾いた煎餅を割るような堅い感触に変わっていることに気が付きます。
それにしてもこれほどの寒さ、窓ガラスだって凍っているはずですが、幸いにも煎餅のごとくパリパリと割れて崩れ落ちることはないようで。