川風便り

キスリングの灯ーその3ー

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話は少々前後しますが、キャンドル作家の米澤さんから試作品が届く前に、ホルダーの大まかなデザイン案と、それを熱成形するための型(煙筒)の用意が終わっていました。その後届いたキャンドルに火を灯して眺めながら、より具体的なデザインを考え、いくつかの制作条件を頭の中で再確認しました。

制作条件としてより重要なことから順に挙げていくと、第一に光源は小さな炎であり生きているということ。キャンドルは、まるで生き物のごとく、自らの身体をエネルギーに変えて放射し、わずかな空気の流れに揺らぎ、徐々にその高さを減らしながら命の終りへと近づいていきます。
普段のステンドグラスの仕事もほとんどは、絶え間なく変化する自然光を相手にしているので、手慣れた条件のような気もしますが、人間の時間軸から考えると、太陽光がほぼ無限の寿命であるのに対して、キャンドルの寿命はあまりに短く、その儚さがホルダーのデザインに影響を与えそうな予感がします。

制作条件の第二は、キャンドル本体の姿を隠してはいけないということ。当然のことながら米澤さんのキャンドルはただ辺りを照らすための蝋燭ではなく、ある目的をもってデザインされた視覚的グッズだからです。
そして第三に、ホルダーだけが目立つということなしにその効果を発揮しなければなりません。往々にしてガラス製品は、その質感と発色の強さから人目を惹きがちです。しかしこれもやはりステンドグラスの仕事に共通した制作条件です。ステンドグラスは常に建築と共にあり、建物の外観や内装と一体化することでその価値を高めるものです。それだけが目立ってはいけないし、だからと言って建築に従属するだけでは存在意義がありません。
他に強度のこと、材料費のこと、電気炉使用時の効率、ショップでの視覚効果、販売時の梱包方法などについて条件設定をしました。
こうした細かい事務処理的な点について一通り検討してからやっと、落ち着いてデザインの構想に集中することができます。

スランピングの試験で、煙突を使って曲げた工業板ガラスをキャンドルの灯にかざしてみると、こんな感じです。

何の変哲もありませんが、具体的な形にすることがデザインをイメージするための大きな助けになります。

ここに何を表現するか?
ホルダーとしての役割を果たすだけでなく、「キスリング」に関連する何か、見る人にインパクトを与える何かが必要です。

ー続く

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