川風便り

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ステンドグラス制作という仕事は基本的に建築業の一種です。そのため北海道では、雪に埋もれる冬場の建築業は停滞し、仕事よりも除雪に忙しい日々を過ごすことになります。今年の冬も例外ではなく、特に年が明けてからは「さて今日は何しようかなあ~」などとネットのニュース見ながら考えているうちに昼を迎えてしまうような毎日、雪が降らなければいよいよすることがありません。そこで思いついたのがLINEのスタンプ作りでした。スタンプ作りは数年前から準備してはいたのだけれど、原画をデータにしてLINEの会社に提出するまでの作業が結構面倒くさく、しばらく保留していたものでした。しかし昨年”LINE CREATORS STUDIO”というアプリが公開されたおかげで、その作業が著しく簡単になったのです。

いくつかデザイン案がありましたが、まずは試しに作ってみようということで、僕自身の顔をテーマにしたデザイン案を、アプリの機能に合わせて描き直すことにしました。自分が使いたいスタンプを自分のためだけに作った方が、誰もが使えるスタンプを作ろうとするよりも楽そうだ、と思ったからです。それは確かにその通りでしたが、最大40個の自分の顔を描くのは結構手間のかかる作業で、一日ひとつのノルマを決めて、完成するまでに一ヶ月半も費やしてしまいました。

LINEに限らず、通常のメールでもフェースブックなどのSNSでもスタンプは使われています。元々象形文字から発展した漢字やカタカナ、ひらがなを使いこなす我々日本人は、ほとんど抵抗感なくスタンプを使い始め、あっという間に定着しましたが、西洋人がこれに慣れるには少々時間がかかりました。西洋では、最初はごく一部の若者が面白がって使っていたに過ぎなかったものが、最近になってようやくその価値に気づいたらしく、誰もが使うようになってきています。決して大げさではなく、スタンプはSNS時代の人類が手にする世界共通視覚言語になりつつあると思います。

さて、それはともかく、実際に自分の顔を描き始めてすぐにあることに気がつきました。より自由な発想を引き出すためにと、鏡や写真を見ないで描くことにしましたが、額の巻き毛の位置が逆になっていたのです。僕は額の髪の生え際に小さな渦があり、渦のところの髪が一部額に垂れ下がるのですが、どの絵もその位置が実際とは左右逆に描かれていました。これはほとんどすべての人に共通することですけれど、自分の顔の記憶とは鏡に映った姿ですので、他人が自分を見るのとは左右逆の姿で記憶しているわけです。写真や動画に映る自分の姿を見てどこか違和感を感じるのはそのせいです。
そのことには気づきましたが、あえてそのままの絵で描き通すことにしました。リアルに描くことよりイメージを表現することの方がスタンプのデザインとしては重要だろうと思ったからです。しかし、1点だけ、ある程度写実的に描く必要が合った横顔のスタンプは写真を見ながら描きました。(多少修正あり)

1ヶ月半かかって描いているもので、最初と最後ではずいぶんと絵のタッチが違っています。色鉛筆とサインペンを使用していますが、荒い感じが最初の方で、最後の方になると結構丁寧に影を塗るようになったりしてます。それもいいかなと思ってタッチの違う絵混在のまま、画像を撮影してから修正加工し、LINEの会社に提出、販売申請をしました。1週間後、無事審査通過のお知らせがあり、現在スタンプショップにて販売しています。50コインです。僕以外の人がどうやって使うのか?探求したい人にお勧めです。


  • LINE→ウォレット→スタンプショップ→🔍「オッサン達のスタンプ」→クリエイターズ(3)

ところで、顔の左右反転で最近話題になっていることがありますね。先日政府発表があった新紙幣のデザインです。5千円札のデザインに使用された津田梅子の肖像が、元写真を左右反転させているということが判明しました。これについて巷では様々な意見が出されていますが、財務省の見解は「反転加工は問題ない。このまま発行する」というものでした。
ネットで見た限りでは、美術関係者たちの意見はおおむね批判的です。「あり得ない暴挙」とか「常識がない」とか激しい言葉で非難している投稿者もいます。逆に「そのくらいはよくあること」とか「デザイン上仕方ない」という意見もあってちょっとした議論にもなっているようです。
その議論を見ていて思うのですが、少々論点がずれているんじゃないかと。

この問題は、単に肖像権の問題ではなく、美術的な構図の問題でもなく、常識の問題でもないと思います。もし同じことを、例えば高校の学校祭で生徒たちがやったとしたらどうでしょうか?「津田梅子さんに対して失礼なことをするな」と先生が怒るでしょうか?または「構図がよくなったからいいね」と褒めてくれるでしょうか?多分どちらもなしで、問題にさえならないと思います。
今回ことが大きくなっているのは、それが政府という権力者側の一存で決められたことであり、紙幣という最も広く国民が使用する印刷物のデザイン過程でなされたことであり、さらに財務省をはじめとする当事者たちに全く問題意識がなく、国民がどれだけ批判しようと関係ないという態度がこれまでの公文書改竄事件を連想させるからだと思うのです。要は、「顔が左右反対になったくらいどうってことないでしょ、これまでもっとひどい事件だってうやむやにしてきたのだから、このくらいで騒ぐ方がおかしいですよ」という政府の姿勢が表れてる気がするんで、国民に対してこういう雑な態度を示す政府が本当に我々の幸せを考えてくれるのか?そこを論点にすべきと思います。

毎年恒例の「トドまってはいけない展」を下記の要領で開催します。16回目の今年、僕の出品物は左右反転自画像LINE スタンプです。お近くの方、どうぞお出かけください。

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