パリの工芸学校の教室では、大型・小型の電気炉を始めとする絵付けに関する設備は立派なものでしたが、エッチングの作業環境は貧弱でした。
小さな流し台ほどの大きさの作業台をビニールで囲っただけ。排気が室内に漏れるため、誰かがエッチングの作業をすると、同じ部屋にいる生徒たちは全員ゴホゴホと咳き込み、目がヒリヒリして涙が止まらなくなる有様。今思うと、非常に危険な状況でした。
僕がいた3年間で、爪をはがしたり皮膚が焼けただれたりした事故が2件起きています。
帰国後、教室でエッチングを教えようということになったとき、パリの工芸学校みたいな、あんな設備では困る、もっと良いものを作らなければとは思いましたが、なにせ前例がなかったもので、すべて手探り状態でした。
箱の材料は?塩ビかアクリルだな。厚みはどのくらい?接着はどうする?
水周りの工事は?廃液の処理は?中和剤が必要か?
それより先に排気場所の確保だ。
肝心のフッ化水素酸液はどこで買うの?
手袋やマスクはどうする?
バットは?筆は?
役所に届けなくていいのか?
等々、多分1ヶ月くらいかかって、接着剤がはみ出し放題、多少歪みあり、しかし十分使用に耐える設備を完成させました。
現在のボザール工房の設備は27年前に作ったもので、僕の3作目です。
自力で作るのは大変ということが分かりましたから、これは専門の業者に頼んで作りました。
その後、他の工房のために監修という形で製作のお手伝いをした作業箱が10作くらいあります。
よりコンパクトにしたり倍の大きさにしたり、床に照明を付けたり、濾過槽を併設したりと、要望に応じたバリエーションがありました。
ー続く