「ステンドグラスに使うガラスって、ほぼ100%海外からの輸入品なんですよ」 なんてことを説明する機会が年に2~3回はありますが、大抵の人は「へ~っ、そうなんですか」と意外そうだったり、ちょっと驚いたりする素振りを見せてくれます。
しかしよく考えてみると(よく考えなくても)、身の回りの品物で純日本製の物を探すほうが難しいくらいの昨今なのは誰もが知っていることです。住宅でも電化製品でも食べ物でも、”日本製”の表示があったとしても、原材料をたどっていくと世界中のあらゆる”場所”が関係していることがわかります。
”場所”ということは、同時に”技術”や”労力”においても他者の力を借りなければ製品が成り立たないということを意味しています。このことに着目し、実際に日用品をゼロから自分で作ってみて、そこにどれほどの他者の力が加わっているのかを確かめようとした人がいます。9ヶ月に及ぶ苦闘の記録が本になっており、僕が昨年読んだ書籍の中では№1の傑作です。
著者のトーマス・トウェイツは、彼の計画がスタートした2008年当時、ロンドンの王立芸術大学の大学院生でした。学位をとるための課題として考え付いたことのようですけれど、ことの成り行きをブログに綴り、ニューヨークタイムズなど大手メディアの注目を集めました。
本の原題は「The Toaster Project」ですが、日本の出版に際しては「ゼロからトースターを作ってみた」となっています。よくあることながら、日本語のタイトルの方が数段アピールしますね。僕もこのタイトルと表紙の写真に魅かれて読もうと思いました。
本の表紙には、出来上がったトースターの奇天烈な写真が載せられています。
見ただけで笑ってしまう出来栄えですが、この本を読み終わるころには一緒に育てた子供のように思え、感動の芸術品に見えるようになりました。
専門家に教えを請い、鉄鉱石の採掘のために鉱山へ出向き、マイカ(雲母)を探して山に登り、プラスチックを作るための原油の調達に失敗し、木を掘り、炉を焚き、明らかな犯罪を犯し(ニッケル硬貨の溶解)てまで作り上げたトースターは、初めてのデモンストレーションの会場で・・・、おっとこれ以上は書けません。
この本は一種の冒険物語ですが、物語に登場する様々な登場人物、大学教授や大企業の社員、労働者や技術者といった人たちの様子が、これまで僕がステンドグラスの仕事で知り合った人たちの誰彼にあまりにも似通っていて、「ゼロからステンドグラスを作ってみた」というのをやってみたら、同じような展開になりそうだなと思いました。
この本は今年の初め、テレビで三谷幸喜氏に紹介されより知られることとなりました。
お勧めの一冊です。