雑記帳

デザインを盗むーその2-

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1984年の秋も終わる頃、知人の紹介で故大伴二三弥(おおともふみや)氏を訪ねたことがありました。大伴氏は、自身がステンドグラスの作家であり職人でもありましたが、氏の主宰する工房からは現在日本のステンドグラス界で活躍する多くの人材を輩出しており、我々の業界に多大な貢献をしたことでも知られています。

その日、世田谷区にあった大伴氏自宅の広間にて、しばしの雑談の後、突然思い出したように氏から言われた一言が今でも僕の脳裏に焼き付いています。大伴さんの口から出たのは「先日の君の作品は、”街景”とそっくりだな。真似したの?」でした。”先日の作品”というのは、その年の夏に東京都美術館で開催された「ステンドグラス展」に出した作品のことを指していました。

この作品は、当時出品者の中で一番若かった僕が、”大きな作品を”という主催者の要望に応えて製作したものです。2m×2mの完成サイズを9分割にして作りました。ただ大きいというだけでなく、これまで誰も見たことがない作品を作ろうと相当に意気込んでデザインしたものでした。それだけに大伴氏から向けられた疑惑は、僕にとって大きなショックでした。

世界のどこにも似たようなものはないと自信を持って作ったのに、どこかに似たような作品があるらしいと聞いて平気なわけがありません。大伴氏から詳しい話をうかがったところ、その作品はステンドグラスではないとのことで、まずは一安心。現物は北海道立近代美術館が所蔵する立体ガラス作品だと聞きました。

僕は北海道出身ですが、そのときはまだ東京暮らしで、ほとんど北海道に帰ることはありませんでした。しかし大伴氏にお会いした直後に、たまたま北海道に行く用事があり、ついでに近代美術館に立ち寄ることができました。そこで見た件の作品は、僕の甘い期待「似ていると言ってもそれほどじゃないだろう」という考えを打ち砕く姿をしていました。

ー続く

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