雑記帳

続・暖炉のある家

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S邸の居間、暖炉の両脇2面のステンドグラスデザインは、施主様(奥様)の希望により、幾何学的でシンプルで明るい感じのものにしました。


色味は薄い緑色だけ。

窓は北向き、寒々しくならないように暖かい感じのガラスを選びました。

ガラスは、ほとんどアンティークガラスですが、周囲には無色の型ガラス、葉模様には白のオパールセントガラスを用いています。

使用するアンティークガラスをドイツ製の一種類にするか、それともフランス製など数種類を混在させるかで、Sさんはかなり迷われましたが、僕の強い勧めもあって、わずかの色違いの薄緑色ガラスを数種類使うことになりました。

そうすることによって、左右2枚の同型ステンドグラスが全く同じものになるという単調さを避けることができます。

しかしより重要なのは、ガラスの色対比によって生まれる暖かさと生き生きとした変化が、”暖炉”という場所の意味合いをより強めることになるという点だと思います。

 

 

 

アンティークガラスには、手つくりの優しい質感があります。

 

筋やゆがみなどが多く主張が強いガラスと、静かで大人しいガラスとをできるだけ隣り合わせて使用し、その対比を強調しました。

それでも全体の印象は、クラシカルと言っていいほど心地よく落ち着いた雰囲気になっています。

 

家の豊かさを、単なる金銭的な贅沢さに求めるのではなく、心地よく過ごせる空間に託すという姿勢が家全体の設計図にも見えていました。

ステンドグラスの仕事をしていて良かったと思うことのひとつは、そういう家庭の豊かさに度々出会えるということです。

 

小学校1年生の時のお嬢様の家は、後になって知ったことですが、長屋風に連なった小さな共同住宅の一棟でした。

 

もうすぐ小学校も卒業というある日の帰り道、いつの間にか転校していなくなった彼女の家をショベルカーが粉々に解体している現場に出くわしました。家はすでに残骸の小さな山となり、入り混じった雪と氷から泥水が滴り落ちていました。

側面に回って見ると、花模様の壁の一部がまだ直立して残っており、その薄っぺらい壁の向こうにペチカの赤いレンガが見えたことを覚えています。

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