ここまで現在進行形で話を進めてきましたが、実を言うと前回までの作業は7月の初めに終わっています。さてこれからエッチングの実作業というときに、ちょっとした不都合が起きて作業は延期となりました。
その不都合とは、北海道の記録的な暑さです。実に125年ぶりということですから、今生きている人は誰も経験したことがないわけです。ちょうどエッチングのシートカットをしているあたりから、気温が上がり始め、これはまずいなと思っていました。
エッチングの作業は、フッ化水素酸溶液の中に粘着シートを貼ったガラスを浸しながら長時間続けるものですが、気温や水温が高いと、作業中に粘着シートが剥がれてくるのです。そうすると意図していない部分のガラスが溶けてしまいます。当然のことながら、一度溶けてしまったガラスを元に戻すことはできず、ガラスカットからやり直すことになります。気温が下がる夜中に作業をすることもあるのですが、今回の気象ではそれもできませんでした。北海道では珍しいことです。
10日ほど待って、待ちくたびれて、僅かに涼しくなった気がする日の早朝からエッチングの作業を開始しました。
ガラスを溶かすフッ化水素酸は、非常に危険な物質なので、プラスチック製の箱の中で作業をします。発生するガスも危険ですから、強力に換気をしながら、耐酸用の長手袋を着用しての作業です。フッ酸溶液の中にガラスを浸したまま放っておいたらできる、ということだと有難いのですが、溶解したガラス屑を刷毛で除去し続けないと、きれいな仕上がりになりません。
途中でガラスを取り出し、粘着シートの縁をところどころ持ち上げます。この画像の青色が鮮やかに見えるのは、ライトテーブルの上で作業をしているからです。
高梨君の要望で、エッチングした形の縁を少しぼかしたいとのこと。青色のエッジがききすぎると象の線描がぼやけてしまうと。これは僕も良く分かります。しかしどの程度までぼかすか?加減の難しい作業です。
4時間ほど作業した状態です。ガラスは職人の手作りのため、被せた青色の厚みが均等ではなく、薄い部分から先に白く(透明に)なります。
さらに1時間ほど作業を続けて、エッチングが終わりました。粘着シートを剥がしたら、このように見えます。
しかし、シートの下に隠されていた青色部分が均一過ぎて、高梨君の原画にある”味”が出ていないと思います。そこでところどころにフッ酸の原液を筆で塗って、地色を”荒らし”または”汚し”ました。
僕の感覚ではもう少し強く”荒らし”たいのだけれど、高梨君に遠慮してこの程度に抑えました。
―続く