カテゴリー4

懐かしき庭-その15-

このエントリーをはてなブックマークに追加

伝統的ステンドグラス技法で用いる鉛桟は、多少別の金属を混ぜることもあるが、基本的に鉛だけで出来ている。
しかし1990年頃、その芯の部分に真鍮製の薄い板を仕込んだものが現れた。その板があまりにも薄く頼りないものに見えたので、鉄製の補強棒に代わるほどの強さがあるとは思えず、しばらく手を出さなかった。

1996年にどうしても補強棒の姿を見せずに作りたい作品を思いついたため、初めて”補強芯入りレッドケイム”なるものを取り寄せ実験してみたところ、思いのほか補強効果があることが分かった。
その時作った作品「二つの翼」(1150h×800w)は24年経った今、古い幼稚園の窓から新築の園舎の窓に移されて、少しの変化もなく健在である。
この作品に鉄棒の黒々とした線が3本横切った姿を想像してみてほしい。

救世主

通常の鉛桟の断面。(幅6㎜、高さ7.5㎜、芯の幅1.4㎜)

補強芯入り鉛桟の断面。(寸法はほぼ同じ)

芯に入っている真鍮の板は厚さ1㎜もないから横方向には曲げやすい。しかし幅5㎜ほどある縦方向に曲げることはできない。ガラスを守る柔軟性と、パネル全体の強度を両立させている。
パネルの周囲を真鍮製コ型の丈夫な枠で囲み、その枠に対して接続し組み合わせることで、芯入りケイムはかなりの強度を発揮する。
しかしながら、芯入りケイムの最大の功績は補強を楽にしたことではない。パネルを水平に横切る鉄の補強棒をなくしたことによってデザインをより自由にできるようになった,こちらの方がより重要だと思う。

ステンドグラスの世界は色々と制約が多い。制作者がデザインをするときには、常にその制約の中で発想する癖がついてしまっている。中でも強度~補強の問題は最も煩わしいものだったが、そこから解放されて発想の領域が飛躍的に広がった。
少々大袈裟な言い方をするなら”補強芯入りレッドケイム”は、正にステンドグラスの世界を変えた救世主なのだ。

「19世紀英国スタイルパネル」には、もちろん芯入りケイムを多用しており、そのおかげで中央メインの花のところに補強棒を入れることなく、すっきりと見せることができている。

およそ3ヶ月半にわたってブログで説明しながら制作を続けてきた作品は、10日ほど前に注文主Mさんの住む東京へと旅立った。
アイキャッチ画像は、蛍光灯のライトテーブル上で撮影したものだが、工房の自然光窓に掛けて撮影すると全く様子が違って見える。
Mさんのお宅でもまた違った見え方をしているに違いない。

―終わり

このエントリーをはてなブックマークに追加