雑記帳

仕事を選ぶ

2008年12月13日
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この仕事を始めたときに、ひとつだけ心に決めたことがあります。
それは、どんな仕事でも決して断らないということ。納期や予算が合わなくて、やりたくてもできないというときは仕方ありませんが、ただ気に入らないから忙しいからという理由で拒否してはならないと決めたのです。

それ以来仕事を選ぶということがほとんどなく27年間を過ごしてきました。ステンドグラス関係の仕事はもちろん、それ以外の仕事、例えばタイルやモザイク、金属、陶器、インテリアデザイン、ポスターやチラシのデザイン、本の装丁から除雪に掃除、運転手やツアーガイドまで、頼まれればほとんど何でも引き受けて、こなしてきました。

”ほとんど”と書きましたが、実は強い決心にも関わらず、いくつか断った依頼はあるのです。最初に断ったのは、札幌に工房を作って間もないころ、ある大手の偽ステンドグラス製作会社からの依頼でした。偽のステンドグラスにも色々な種類がありますが、そこの会社はアメリカで開発された技術を用いており、仕上がった作品の見かけはかなり本物に近くて、偽ステンドグラスの中では一番高価でもあります。会社の依頼内容は、専属のデザイナーとして仕事をして欲しいというものでした。専属が無理なら随時契約でも良いから協力してもらいたいと強いお誘いでしたが、一瞬考えてお断りしました。

そのとき工房に来られた方々がとても感じの良い人たちだったもので、僕の思った通りをできるだけ柔らかい言葉でお伝えしました。
曰く、「技術にいいとか悪いとかはないと思うんですが、本物に似せるという行為が非文化的だと思うんですよね。それでも個人で楽しむくらいなら構わないのでしょうけど、学校や病院みたいな公共的な建物をターゲットにしていることも問題じゃないかな?そういう不特定多数の人間が出入りするところでは、たくさんの人が本物のステンドグラスだと思って見るんじゃないですか?すばらしい技術だというお話でしたが、もし技術に自信があるなら、その技術を使って全く独創的な外観の作品を作った方が良いと思います」

その会社のパンフレットには、本物のステンドグラスに比べて、より自由なデザインで早く安く製作できると説明されていました。本物に似せて作った贋物であるこ とは明確に表記してありましたが、しかしそれでもやはり消費者を騙す行為であることに変わりはないと思います。そんなものに加担することはできません。

昨年、少々それと似通った話が来ました。
大阪府吹田市の火葬場の物件でしたが、ステンドグラスを設置したいということで依頼があり、資料や見積もりを提出しました。しかしその後予算の関係で中止となり、より安価な代替品を利用することになったと連絡がありました。こういうケースはこれまでにも何度か経験してますし、まあ仕方がないなと諦めていましたら、再度連絡があり、代替品のデザインだけをやってもらえないかというのです。ん~、ちょっとなあ・・・、丁重にお断りする文脈など思い浮かべながら一応説明を聞きますと、予測とは違う内容であることがわかりました。

吹田市が使用することにした代替品は偽ステンドではなく、印刷したプラスチックフィルムを2枚のガラスの間に挟むという合わせガラスの技術を用いたものでした。ステンドグラス風にデザインすることも可能ですが、その必要はないので、むしろ新規な独自のデザインをしてもらいたいとのこと、それならばOK!喜んで引き受けました。

僕は、ガラスなら良いけどプラスチックはだめだと言うつもりはありません。発色や耐久性、風合いなどの点で、ガラスの方が素材としての価値が高いという意見には納得できる部分も多々あります。しかしだからといって、価値ある材料で作った作品は価値が高いということには直結しないと思うのです。

ステンドグラスの制作者は、もちろん僕自身を含めてですが、ガラスという材質に頼りすぎる傾向にあります。僕たちは「いいガラスでしょう、ねえ」なんてことを結構口にしますが、油絵画家が「いい絵の具でしょう」などと言うのを聞いたことがありません。
物質的価値が低いとされるものから価値を生み出すには、少しばかりのアイデアと工夫、そしてそれを押し通す勇気が必要です。材質に頼らないだけに、その作品のアートとしての価値がより鮮明に浮き出てくるからです。

これだけ大見得を切った後では紹介しづらいものがありますが、「吹田市立やすらぎ苑」の仕事をお見せします。

吹田市 やすらぎ苑 炉前ホール 合わせガラス第1期工事は、昨年8月、炉前ホールに設置。
タイトル : 「命の輝き」              2293h×1820w

石張りの内装と調和し、神秘的な空間になるようにという市からの要望に応えてデザインしました。大まかな形はオオムラサキをモデルにしています。はじけるような生命力を感じさせると共に、命のはかなさと美しさも連想できたらと思います。

吹田市 やすらぎ苑 収骨廊下 合わせガラス第2期工事は、今年8月、収骨廊下に設置。
タイトル : 「ひかりの園」             1515h×1386w

斎場ということにこだわらず上品上質なデザインをという要望です。ステンドグラスとは全く関連性のないデザインをしたいという僕の個人的な欲求から、輪郭のある形を描かずに色彩だけで表現しました。温かみのある光が来苑者に癒しの効果をもたらすことを期待しています。

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