雑記帳

日本の酢

2008年5月18日
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今週の初め頃、大災害などの重大なニュースに混じって、おやっと思えるちょっと異色のニュースがテレビや新聞で紹介されていました。それは、「美味しんぼ」というマンガのストーリーについてです。

このマンガは、1983年に小学館ビッグコミックスピリッツに連載を開始して以来、時々休みながらも継続して、今ではコミック本で100巻を越えるまでになりました。ストーリーはすべて「食」を扱っていますが、もうひとつの柱として、主人公山岡士郎とその父海原雄山の激しい対立が描かれていました。ところが今週発売の同誌で、この二人がついに和解したというのです。こんなことがニュースとして報道されるなんてかなり異例のことではないでしょうか。
報道についての良し悪しは別として、マンガ好きの僕にとって、しかもこのマンガを結構気に入って、ほとんど全巻読んでいる身としては、少々驚かされるニュースでした。最終回か!?とも思いましたが、そうではないとの作者雁屋哲氏のコメント、それじゃこの後ストーリーはどうするんだろう?と、きっと誰もが抱く疑問でしょう。

それはさておき、このマンガに長く親しむきっかけになった一話があります。それは、コミック本の第66巻に収められている「真心に応える食品」でした。話の内容は、日本の食酢がどのように作られているか、その現状を伝えるものですが、僕にとっては、なるほどそういうことだったのかと得心できる部分がありました。
僕の工房では、教室生徒の道具棚に酢の瓶が一本ずつ入っています。仕事に使っている瓶も数本あちらこちらに置いてあり、在庫が1ダースほど、合計で常に数十本の酢が工房に置いてあることになります。知らずに工房へ来た人は、酢の匂いがしますねと訝ります。酢は、ステンドグラス用の絵の具グリザイユを使用するときの主要な溶剤です。また清浄効果もあるため、ガラスの清掃にも使用しています。
パリの工芸学校のステンドグラス教室にも酢はふんだんに置いてありましたが、学校の支給品であり、またあまりにも普通に使用していたため、それがどういう成分でどこのメーカーのものなのか、全く気にしたことがありませんでした。

帰国してステンドグラスに関わる、それも主に絵付けに関わる仕事をすることになり、自力で絵の具とそして酢を揃えたわけですが、酢が原因でしばらく失敗を繰り返すことになりました。パリで使っていたのがワインヴィネガーだということはわかっていたものの、身近にある日本の酢でも使えるのではないかと思いまして、近所のスーパーで買ってきた酢を用いて、軽率にも事前の実験もせずに教室や仕事に使ってみたのです。酢の原料が違っても、性質は大差ないだろうと高をくくっていました。
結果はひどいもので、絵の具が剥がれる、カビが生える、べたつく、ハエがたかる等等、酢を代えてみても同様の事態が起きて、結局スーパーに並んでいた数種類の酢はひとつも使えるものがないということを、数ヶ月かけて確認しました。

blog-3-003.jpg「美味しんぼ」を読んで分かったのは、日本の酢のほとんどは合成酢であり、その質の悪さを隠すために調味料や アルコールなどの添加物が使われているということでした。
この添加物が、絵付けの際に色々と悪さをするらしいのです。

中には、マンガの中でも紹介されていたような、昔ながらの製法で作られた良質の酢もあるのですが、安定して手に入りづらかったり、高価であったりするため、輸入物のワインヴィネガーを使用することにしました。

 

現在は、フランス、maille(マイユ)社の製品を使っています。料理に使っても最高の味を出す一級品です。

ちなみに日本の酢は米(日本酒)を原料にしたものがほとんどですが、フランスでは葡萄(ワイン)を原料にした酢が一般的です。 フランス語の酢という言葉は、vin(ワイン)とaigre(酸っぱい)が合体したvinaigre(ヴィネーグル)という言葉ですから、ワインから作ったものしか酢とは呼ばないのかもしれません。ステンドグラスの古い技法書にも、グリザイユを溶くには古くなったワインを使えと記されています。

ワインと言えば、ニュースになった「美味しんぼ」の和解シーンには、フランスワインが登場します。海原雄山が息子の山岡士郎に「PETRUS POMEROL 1996」を託して、「このワインが飲み頃になったら飲もう」という言付けをするのですが、そばに居た団社長に「ペトリュスの12年ものはもう飲み頃だよ」と言われ、慌てて雄山邸に駆けつけ、父子共にグラスを傾けるというラストシーンでした。
ペトリュスは近年急に評価の上がったボルドー産のワインですが、有名なロマネ・コンティと肩を並べる勢いです。でも確か、「ペトリュスは20年待て」というのが定評で、それが事実だとすると、12年ではまだ飲み頃ではなく、雄山は8年後に飲みに来いと言ってることになってしまいますね。深読みのし過ぎでしょうか。

もうひとつかなり昔のニュースですが、100年以上寝かせてあったワインをオークションで落とした人が、そのワインを開けてみると、完全に酢になっていたということがありました。 現在、ある程度以上の古いワインはまず開けられることはないと聞きましたが、すべて酢に変わっている可能性大です。

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