「線描き」の焼成が終わって「調子付け」の作業に入る。
現代のステンドグラス作家は、電気炉という大変便利な道具を持っているため、夕方にスイッチを押すだけで、翌朝には絵付けしたガラスが焼き上がっている。
しかしかつて炉を熱するために薪を焚いていた時代では、ガラスを焼成するということは相当に大変な作業だったはずだ。そのために焼成回数をできるだけ少なくする工夫がされていた。
昔のステンドグラス絵付け職人たちが、グリザイユの溶剤として酢と水を、時には油も使っていたのは、線描きと調子付けを同時に施して一度で焼き付けるための工夫でもあった。
調子付けには、通常水溶きのグリザイユを使用する。
実際の作業手順;(画像左から)
1.まずガラスピース一枚の表面全体を水で濡らし”特殊な刷毛”で均等にならす。その上から必要な個所に必要な分量のグリザイユを置いて、また刷毛でならす。
この作業を必要なだけ繰り返すのだけれど、すべての作業を水分が乾かぬ前に終えなければならないので、一回の作業時間は30秒から1分以内というところだろう。
2.グリザイユが乾いたら、ハイライトの部分を削り落とす。絵画の技法では、ハイライトは一番最後に描かれるものだが、ステンドグラス絵付け技法では手順が逆になる。
3.ハイライトをぼかしながら全体の調子を整え、余分なところに付着したグリザイユをきれいに除去する。
調子付けの作業には何本かの筆を使うが、最も重要なのは”特殊な刷毛”だ。
この刷毛のことを、フランスではブレロー(仏語;blaireau)と呼んでいたが、英語ではバジャー(badger)と呼ぶ。どちらも穴熊のことだ。西欧では、筆の名称は毛の持ち主の名前であることが多い。
バジャーは、主に地ならしと絵の具の寄せに使うが、縦にしても横にしても良いし、時には突いたり剥がしたり、工夫次第で様々な使い方ができる。
すべての調子付けが終わったところで2回目の焼成。
しかし次の日、焼き上がったガラスを炉から取り出したら、またもやアクシデントが!
いや、大問題!と言った方がよい事態が起きていた。
ー続く