女性の名前は早川明子さんといいまして(実名出しちゃっていいのかな?いいだろうな?)、そのころTV放映されていた子供向け番組「ひらけ!ポンキッキ」の人形制作を担当していましたから、業界ではよく名前を知られていたろうと思います。
僕たち三人は人形つくりの話で盛り上がり、よし次回は上島さんと僕がそれぞれ人形を作ってきて早川さんに見せ、講評してもらおうということになりました。
素材はそのころ新発売の石粘土に決めました。
2週間ほど過ぎたある日、約束どおり早川さん宅で二人の作品の披露となりました。
僕はちょっとおちゃらけて、犬の頭型のボトルキャップを作りました。
まだどこかに保管してあったはずと捜してみたら、戸棚の隅にありました。
30年近く前のものだというのにほとんど傷んでいません。
早川さんからは、「このコンセプトの品として完成してるよね」とお褒めをいただきました。
さて上島さんの作品ですが、残念ながら写真はありません。
しかしその形、というより印象を良く覚えています。
作品の形は確か夏みかんくらいの大きさの地球に、それより大きいペガサスが今飛び立とうという姿勢で乗っている、というものでした。
アイデア自体は少々俗っぽい(失礼!)ものですが、僕は予想外の形の良さに驚かされました。写実性という観点から見ると、格別にうまいというものではありませんでした(これも失礼!)。しかしながら作品の良さというのは、アイデアや、うまいかへたかの技術のみで決まるものではありません。その作品に寄せる情熱が何よりものを言うのだと思います。
上島さんの作った形には、全体を貫くイマジネーションがはっきりと感じられました。石粘土の表面に残る指跡のひとつひとつは、自分の思うところをを納得の行くまで完璧に表現しようとした戦いの跡でした。
早川さんの見方も僕と同様だったようで、上島さんのペガサスを色々な角度からしばらく眺めた後、「いいよねえ~、頑張ったよねえ~、作るの好きなんだね」と感想を述べました。
それからしばらくして上島さんは能登の陶芸家の下で修業の道に入り、わずか1年後には独立して 「遊陶房」という工房を構えました。
”修行の期間が短すぎないか?”と思う向きもあるでしょうが、上島さんにはすでに陶芸家になるための素質が十分に備わっており、あとは技術が追いつくのを待つだけでした。
20年以上の制作活動を続けてきた現在の上島さんの陶芸家としての腕は、オーソドックスな茶碗や皿や花器を見れば明らかです。
しかしそれでもやはり上島さんの特質を最も顕著に表すのはオブジェの類だと僕は思います。
ご覧のようなかわいい小品にも上島さんならではの”何か”が込められていて、思わず手にとって撫で回したくなります。
そんなわけで僕が制作担当したDMには、上島さん近作の猫のオブジェ(花器でもあります)の写真を使うことにしました。僕もたまたま猫の作品があったもので、面白いかなと思い並べてみました。
しかしこれでは”猫”の展覧会だと勘違いする人が続出しそうな気がして、「猫の展覧会じゃありません」というタイトルを冠することになりました。
首尾よく刷り上ったDMが印刷所から送られてきて、「ん~、まあまあの出来だな」と自己満足に浸りながら三日がかりで宛名を書いて、一斉に発送。
翌日返ってきた第一声が「わあ~猫の展覧会なんですね!楽しみですゥ~」でした。
ー後編に続くー