雑記帳

デザインを盗むーその1-

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30年ほど前、ある著名な建築家にお会いしたときに、「ステンドグラスの世界は胡散臭いよねえ」と言われたことがあります。続いて「著作権の問題はないの?」と聞かれましたが、その頃の僕は不勉強で、一言も返答することができませんでした。

確かにその頃日本のステンドグラス界では、アメリカやドイツの有名作家の真似が大流行で、如何に上手に真似るかを競争しているかのように見えるほどでした。法律的に考えれば明らかに盗用、間違いなく著作権法違反のはずですが、ご本家の作家がよほど大らかだったのか、誰かが訴えられたという話を聞いたことがありません。

著作権侵害は原則として親告罪ですから、著作権者に訴えられない限り罪に問われることはありません。しかしだからといって他人がデザインしたものを軽々しく使用してよいわけはなく、作家としてのプライドと制作姿勢を問われる事柄です。

近頃話題になっております佐野研二郎氏の東京五輪エンブレムデザイン盗用疑惑については、当初僕は「微妙だなあ~」と思いました。

 

「このくらいの偶然ならありえるかも?」

「元のデザインを参考にしたとしても、”盗んだ”とまで言えるかどうか、際どいところだな」

 

デザインを仕事にしている人の大多数は、おそらく僕と同様の感想を持つと同時に、自身の”際どい仕事”について思いを馳せたことと思います。

デザイナーは、真面目な人、力のある人ほどよく勉強します。過去の名作を知り、現在の流行にも敏感です。溜め込んだ知識は、その人の力の一部でもあります。デザインを生業とする人が、日々の仕事を自らの独創的なアイデアのみでこなしていくというのはまず不可能と言ってよいでしょう。自分では”独創的!”と思っても、それが過去に誰かが作った形や配色の影響を受けてないとは言い切れないものです。

そういう意味合いから、当初は佐野氏に向けられた疑いを多少同情的な気分で見ていたのですが、その後別件の疑惑が次々と明るみに出まして、その内容を見ると明らかな盗用であり、どれも言い逃れできないレベルです。こうなってはもう”常習犯”としか言いようがなく、その制作姿勢に大きな問題があると思えます。

しかし、かく言う僕も過去にデザイン盗用の疑いをかけられたことがあるのです。

ー続く

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