今週は、先々週の「美味しんぼ」に続いて、またマンガのストーリーがニュースになりました。モーニング(講談社)連載シリーズの主人公島耕作が、社長に就任したということです。1983年に初めて登場したときは課長でした。それから、部長~取締役~常務~専務と順調に出世し、ついに25年後の今年グローバルな組織を束ねる大企業の社長になったわけです。
僕は、会社務めの経験は一度もありません。組織の中で働くということがどういうことなのか、このマンガを長い間読み続けて、疑似体験をすることができたように思います。企業間の競争や、会社内の様々な人間模様は、作者弘兼憲史氏の綿密な取材により描かれたもので、かなり現実の状況に近いのではないでしょうか。
同年テレビでは、山田太一原作・脚本の「ふぞろいの林檎たち」が始まって、悩み多き当時の若者像がシリアスに描かれていました。映画では、現代の家族が抱える問題点を辛らつにそして多少コミカルに表した松田優作主演の「家族ゲーム」が大ヒットしました。
一方では、東京ディズニーランド が開園し、地方でも様々なテーマパーク構想が立ち上げられて、地価が上がり、給料も上がり、世の中全体がいけいけムードでバブル景気に突入する準備を整えつつある時代だったと思います。
そのころ僕はと言えば、フランスから帰国して2年目、東京でステンドグラスを教える仕事にはついたものの、週の半分は休みで、将来この仕事を生活の糧とするべきか、決めかねている状況でした。毎日のように入り浸っていた喫茶店では、松田聖子の「ガラスの林檎」や、松任谷由美の「ダンデライオン」、村下孝蔵の「初恋」が流れていました。すべてのマンガ雑誌に目を通し、やはり同年始まった「美味しんぼ」など読んで、料理人になるのもいいな、調理学校に通おうか、などと本気で考えたことがありました。
そして、やはりこの年、「課長島耕作」と同時にモーニングに登場したのは、わたせせいぞうさんの「ハートカクテル」でした。
かつて横尾忠則や真鍋博がもてはやされたころ、自分もイラストレーターになりたいと思った感覚、いやそれ以前小学生のとき、将来漫画家になろうと思った感覚を呼び起こしてくれるような懐かしくも新鮮な画風でした。美術の世界からは離れられないなと、漠然とした覚悟を決めた時期でもあります。
3年ほど前、そのわたせさんから依頼があり、展覧会に2度にわたって協力させていただき、5点のステンドグラスを制作しました。
不思議な巡り合わせです。
僕がいつも見ている数少ないTV番組のひとつ「行列のできる法律相談所」に、つい先日、わたせさんがコメンテーターとして出演されたのも驚きでした。
人間長くやってると、かつて自分が興味を持った物や、関わった人や事柄が、次第にひとつところに集まってきて、まるで最初からそれが目的であったかのように、位置を決めて収まっていく、そんな気がしています。